恋は部分にするものではないと私は思っていた。そのくせ私は自分が里佳子さんの夫のような人間を絶対に好きにならないと確信していた。里佳子さんはその矛盾をあぶり出すために私に質問を重ねたのだ。ねえ槙野さん、人を好きになったら、その人のだめなところもぜんぶ好きよね、そしてその人との関係を続けるために、努力をするわよね。
一連の話を聞いて彼は拳でデスクを叩いてみせた。だめだめ。私は回想から醒め、なにが、と尋ねる。槙野さんがだめっす、と彼は言った。いいですか、里佳子さんのラブは強いかもしれないけど間違ってます。ちょう間違ってる。そういう人間に他人がすべきことはただひとつ、俺はそういうの、嫌いだね、という態度を貫くことです。あんたの旦那は最低だって言ってやることです。そして旦那が嫌になったら連絡しなよって、嫌にならなくってもときどきは連絡しなって、そう言うことです。里佳子さんが愛に殉じるのは里佳子さんの勝手です、でも子どものために逃げることもあるかもしれないでしょう、そしたら他人にできることは、里佳子さんが家庭に疑問を持ったとき、外の世界の窓口になること、簡単にアクセスできる窓口であることです、それってすごく大事なことだと、俺は思います。
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